lonliness
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寂しい夜である。
明日、現職に退職の旨を伝えに行く。
私は、この企業の人が大好きであった。
同期、上司。
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時にはどうしてこんな方法で営業をするのか疑問を抱いたこともあったが、
それ以上に人が、好きだった。
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腰椎分離症になって仕事を継続することが難しくなり、
直属の上司に相談して早2か月。
当時はとにかく焦燥感に追われて毎日を過ごしていた。
同期は毎日ネタを掴んでくる。
商談はアツい案件が多く、受注の近いものばかり。
私は、腰を気遣われ、7割~8割の訪問件数でいいよと言われる始末。
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腰の状態を上司に伝えた日、その週訪問するはずのアポを全てキャンセルさせられた。
中には再訪で、次に行けば見積もりが出せそうな案件もあったし、
数週間捕まらなくてやっとアポを取れた担当者もいた。
涙を飲む思いで、キャンセルの連絡を入れた。
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キャンセルをした週は、先輩同行をした。
急にアポイントをキャンセルし、先輩に同行を頼んだ私に
「どうした?」
と先輩は聞いた。
悔しい思いをひた隠しにし、私は笑顔で、
「いやあ、ちょっと腰を痛めてしまったんです、急に同行をOKしてくださってありがとうございます!」
と答えた。
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その同行から帰ってきて、軽く事務処理をしていると同期が帰って来た。
「聞いて~!受注しそうなネタあるの!」
おめでとう、と言おうと思って口を開くと、先に涙が出そうになって、
急いで事務処理を終えて会社を後にした。
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会社から出て最寄り駅まで歩いていると、
「日向?日向~!」
と、先輩同行から帰って来た同期に声をかけられた。
「今日はどうしたの?早いじゃん」
先輩に話しかけられ、
「あ、今日は先輩に同行をしたんです…」
「腰?」
「そうです」
「日向の上司から聞いたけど、俺は気づいてたよ」
「へ?」
「だって行動見たらわかるやん」
「あぁ…」
「あんまり無理するなよ」
「そうだよ、なんか出来ることあったら言ってね?」
「ありがとう…」
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そうやって、気を使われたまま仕事をするのが嫌だった。
自分が訪問数を減らして営業をしている間に同期が沢山ネタを掴んでくるのが嫌だった。
それで、転職をしようと決意した。
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チームの違う、でもヒアリングを見てくれていた先輩が、私をよくわかっていてくれた。
「日向は、まだ伸びる。でも、腰のことがあるのもあるし、皆に気を使われて仕事をするのは嫌だよな。内勤出来たらいいけれど、それも出来ないんだっけ?」
「無理でした」
「そうか…」
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この先輩が、私は好きだった。
ドライで、売上の高い先輩。
売れるノウハウを沢山伝授してくれた。
タイプも似ており、嫌な顧客に当たった日はこの先輩に愚痴って帰った。
直属の上司もそうだが、この先輩にもずっと先輩でいて欲しかった。
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そんな私は、明日、退職の話をする。
直属の上司も、その先輩も、外出でいない。
挨拶をしたくても出来ないし、仲の良い同期も外出をしている。
本当は大体皆が社内日である今日会社に行きたかった。
同期や先輩がどう思うかは分からない。
たった4か月で辞める私を、どう思うかは分からない。
でも、私は同期が同期でいてくれて、誇らしい。
この同期が私の同期であることが、心から誇らしい。
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今朝、どうやら私の転職先が決まったことが上司からチームメンバーにリリースされたらしい。
流石日向、という空気感だったと、一番仲の良い同期からLINEで知らされた。
嬉しい反面、もう戻れないと思い知った。
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明日、私は退職手続きをする。
たった4か月在籍しただけで、何も残していない私だが、
いつか皆で集まって研修中こんなことがあったね、とお酒を飲みながら語る日がくればいいな。
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ほろ酔いで見上げたスカイツリーにこれからを鼓舞された気がして、しゃんと背筋が伸びた。
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♥Hinata♥